後藤温泉客舎
東北(青森県)格安温泉宿泊・自炊・湯治おぼえがき
黒石 温湯温泉
≪2014年06月宿泊≫(1泊)
昔ながらの温泉宿がどんどん絶滅する昨今、青森の往時の湯治文化を継承する客舎も同様に姿を消しつつあります。
客舎という温泉湯治宿泊施設はもともとは施設内に内湯を持たず、湯治客に自炊滞在インフラ(部屋、炊事場、トイレなど)だけを有料賃貸する宿泊施設です。
湯治客は風呂に入るときは客舎の玄関を出てすぐ近くの共同浴場を使うのです。
自分が初めて客舎というものを知ったのはもちろん青森で、不勉強なので少々自信はありませんが青森でも温湯・大鰐にだけある湯治宿スタイルだと認識しています。
以前(2012年秋)大鰐温泉では宿泊を受け入れている客舎がすでに残り1軒になってしまっていることを知って、あわててその客舎である久七客舎にお世話になりに行ったのですが、こちら温湯は長らくスルーしていました。
大鰐の久七客舎さんは客舎といいながら実は内湯があって玄関を出ずに脱衣所まで行けたのですが、温湯の客舎は本気モードで玄関を出ないと風呂に入れずしかも泉質は無色透明ナトリウム-塩化物泉で、硫黄に偏食傾向がある人間としてはあまり食指が動かなかったからです。
今回温湯の客舎に宿泊する気になったのは、ツマラぬお話ですが土日祝日高速道路半額割引が無くなるので行けるうちに行くべ、ってぇやつです。まぁその程度のモチベーションだとも言います。
ちなみに温湯の客舎はまだ何軒かありますが、それなりに昔ながらの風情を残す純粋な客舎は実は当宿だけになっています。
たぶんかつて筆頭にあげられていた(と思われる)飯塚さんはこのご時勢内湯を作り、客舎名を返上して飯塚旅館と名を変えました。盛萬客舎さんは別にそれが悪いというつもりはありませんが、玄関や窓がアルミサッシなので自分的には遠慮しました。
よって、温湯で自分が宿泊するなら後藤さんしかなかったわけです。
宿泊予約は電話一本で、13時チェックインOKで実にシンプルに済みました。
客舎は基本的にインフラ提供で食事は付きませんので、14時前後着とお話して素泊まり1泊オール込み@3000です。
当日は予定通り14時頃に鶴の湯(共同浴場)までは無事につきました。
とりあえず鶴の湯の駐車場に仮駐車して、すぐ脇の後藤客舎さんに案内を乞いに入ります、が、ご用があったら押してください、のチャイムボタンをいくら乱打してもまったくレスポンスがありません。
チャイムの電線をたどると裏の別の家屋につながっていたので一応、そこでも人を呼びますがやはりノーレスポンスです。お宿の電話に電話しても応答なしです。
仕方ないしどうせだから、共同浴場鶴の湯で時間をつぶそうと開き直って風呂に行きました。
脱衣所に持ち込んだ携帯でもう一回電話したのは15時前、まだ応答がないので、もう一回ゆっくり湯船につかった後、さすがにしびれを切らして強行再突入したのが15時過ぎです。
チャイムを乱打したら、裏の家からおばさんが走ってきました。
いきさつを少々イヤミに話しましたが全然気にかける様子はなく、部屋がここね、炊事場はここね、布団出したからね、であっさりお家にお戻りになりました。
車は客舎の裏の女将さんの家のさらにその裏の空き地に停めなおしますが、入り口が少々せまくて車を入れるには慎重を要します。
昨今地方の温泉の不振が取りざたされますが、お客さんが来てくれないと嘆く前におもてなしする側のマイペースすぎる姿勢を見直していただく余地は十分あるように感じた次第です。
当宿では客室の室番がないのですが、お世話になったのはお宿の玄関入って左側すぐの鶴の湯目の前の部屋でした。
客舎棟は正面・裏面は全幅ガラス窓張りで、ガラス窓内側は土間通路になっており、玄関からまっすぐ土間通路が裏口まで貫通していて、建物内で土間通路がH字型になっています。
中央の土間通路を挟んで、表側(鶴の湯側)に左右2部屋前後、裏側(女将自宅側)にも同じくらい、それぞれ客室があります。
客室は6畳くらいから10畳くらいまであって、お世話になる部屋は10畳です。
隣客室との仕切りはふすま、土間通路と部屋の仕切りは障子(そこそこ厚いカーテンあり)、建物の外殻は古い1枚ガラス窓、といった感じです
客室設備は和テーブル、お茶セット、湯沸かしポット、鏡台、扇風機、5チャンネル(うち1チャンネルは電波状態が悪くてモザイク入りまくり)映る30インチくらいの無料テレビ、150リットルくらいの2扉冷蔵庫です。
アメニティはティッシュ、浴衣でした。
なお出された灰皿は先客のタバコの灰がこびりついたままで、宿泊者名の記入用紙についてきたボールペンはインクが切れていましたが、湯治ですからおおらかに受け入れましょう。
寝具はマットレス+木綿敷布団+タオルケット+木綿掛け布団が部屋に運び込まれましたが、すぐ裏の部屋にストックされているものです。
コンセントはテレビがある小さな床の間に2口×1があって、三又ソケットとOAタップで十分に蛸足拡張されています。
炊事場は、玄関から土間通路を建物裏側に抜けて右手突き当たりに有ります。
食器は多数、共用冷蔵庫、無料コンロ台、流し×2、食器洗い洗剤あり、調理器具・鍋薬缶若干あり、電子レンジあり、といった感じで不自由はなさそうでした。
トイレは玄関から土間通路を建物裏側に抜けて左手突き当たり、男女共用でかなり古い汲み取りボットン式があります。
でもそこまで行くより、客舎玄関を出て目の前5mの鶴の湯共同浴場の水洗外部トイレを使うほうが近いしきれいだし手っ取り早いので、自分はもっぱら鶴の湯トイレを愛用しました。
風呂は客舎だけあって内風呂はなく、風呂に入りたければ100年か200年かわからぬ昔からの習慣の通り、目の前の共同浴場に行くのです。宿玄関から浴場入り口まで10mほどです。
でも鶴の湯は鉄筋コンクリート建てのさほど情緒のないこぎれいで新しそうな共同湯で、朝4時~夜22時まで@200で入浴でき、後藤客舎にとまるともれなく入浴券1枚が貰えます。
写真では空いていそうに見えますが常時10人前後は入浴客がいて、人影のない写真が撮れたのはほぼ奇跡と言います。
客舎の建物外見はとてもシブくて情緒があって結構なのですが、外を通る車の走行音や入浴客の声はほぼ減衰なしに聞こえますし冬場は寒気が、夏場は熱気が客室を直撃しそうな印象です。
目の前に鶴の湯駐車場があるのでエンジンをかける音やエンジンをふかす音が四六時中絶え間なく続き、正直さほど快適とまでは言えないでしょう。
客舎も設備も良くも悪くもたいそう古びているし接客も決して丁寧とは言えず問題意識も希薄そうで、正直気持ち良く滞在できるとは言いづらいかもしれません。
屋外に出なければ風呂に入れませんし、朝晩は結構共同浴場は混んでいます。
逆にいえばこういう宿もそう長くはなさそうだし、もし東北の固有の文化や風情といったものに興味があるなら、早めに泊まっておくほうがいいんじゃないかと思ったりします。
外見は間違いなく風情がありますから。